とうきょう すくわくプログラム
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・5歳のJは多動の傾向があり、知的な発達もゆっくりらしい子である。(現地では「特別な権利を持っている子」と表現)・「怪物を描いてみよう」という先生の提案に、Jは走って紙を取りに行き、鏡の前で怖い顔を確認しながら、「怖い怪物を描く!」と言って描き出す。描き上がった絵を先生に見せると、「なんて怖い動物!すごい!」と先生は言う。Jは喜んで、2 枚目の絵を描く。「怪物」が二匹縦に並んだ絵を先生に見せるが、「先生、見て!怖いよ!でも手足を描いて、靴をはかせたら、怖くなくなっちゃった…」と言う。「そうね、怖くないわね」と先生が言う。・すると、絵が得意なKが、胴体から三つの頭が出て火を噴いている竜を描いた自分の絵をJに見せる。Jは「頭がいっぱいだと、怖いんだ!」と気づき、黄色のクレヨンで頭を五つ描く。さらに、Lが「怖い色は、赤・青・黒よ」と囁く。それを聞いて「黒いのが、一番怖いよ」と隣の席のMが呟く。Jは黒い頭を画用紙の真ん中に描き込み、画用紙の下に、連なった“A”の文字を描いて「出来た!」と先生に絵を見せる。「頭がいっぱいね!」の先生の発言に対し、「一、二、三…、七つもあるの!」。「七つ!怖いわ!」と先生が言うと、「アーって叫んでるの!」と“A”の文字を指す。「わー、言葉みたいにくっ付いているのね」と先生が感心すると、「そうなの!アーアーアー!」と得意になってJは叫んでいた。・「特別な権利を持つ子供」も、そうでない子供と一緒に探究活動を行う中で、「違い」を新しい「価値」として捉えている。・先生は話して教える役ではなく、子供に問いを投げかけ、子供の言葉に注意深く耳を傾けながら受け止める役に徹している。これにより、子供は「先生は自分の言うことを聴いてくれる、自分を受け止めてくれる」と感じ、自分の言葉で活発に語り掛けることができている。・「怖くなくなっちゃった」というJの発言を先生が受け止め、感情を肯定することで、J自身が彼の気持ちに気づくきっかけとなった。また、Jの様子を見たK、L、Mなど周囲にいた友達の言葉と関わりによって、Jの新たな表現が生まれた。⇒「探究」における子供たちの問いが他者との「協働」を促し、「創造性」が発揮されていく。その他探究活動事例✔『怪物の探究プロジェクト』レッジョ・エミリア市(イタリア)

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